Vol.3
捨てる力が、住まいと人生を軽くする
タイムス住宅新聞 連載「建築士が語る 人生を楽しむ住まい」|一級建築士 村山 創
「ミニマリスト」という言葉、聞いたことありますか? モノを厳選して持つ、本当に必要なものだけに囲まれて暮らす——モノに振り回されない人生スタイルのことです。「なんか修行みたいで窮屈そう……」と思った方、私も最初はそう思っていました。でも実際に試してみると、驚くほど気持ちいいんです(ミニマリストには程遠いですが…)。
心理学に「選択のパラドックス」という考え方があります。選択肢が多ければ多いほど、人の満足度はかえって下がる、というものです。レストランのメニューが多すぎると選べなくなる、そんな経験、ありませんか? 住まいも同じで、家電やモノを増やせば増やすほど、なぜか「豊かさ」ではなく「重さ」が積み上がっていく。不思議ですよね。
「あれば便利」って、よく考えると「なくても平気」のことが多い。広告を見ていると、どの商品も魅力的に映ります。家電、車、家……。でも私はそのたびに心の中で考えるようにしています。「来年には、もっと新しいものが出てくる」と。「あれば便利」は確かにそう。でもそれって「なくても平気」なんです。
家づくりには二つの方向があると私は思っています。「足す家づくり」と「引く家づくり」です。広さを足して、収納を足して、設備を足す——多くの方は自然と前者を選びます。でも「多くを持つこと」ではなく「シンプルにすること」を目指すと、不思議なことが起こります。余白が生まれ、モノが絞られ、統一感とともに家全体に調和が生まれてくる。モノや広さや設備を「引く」ことで、暮らしの質がぐっと上がっていくのです。
そして、見落とされがちなのが「時間のコスト」です。広い家は掃除に時間がかかる。設備が多ければメンテナンスも増える。モノが多いと、探す手間が生まれます。この小さな積み重ねがじわじわとストレスを生む。掃除や管理の手間ごと「捨てる」という発想、なかなかおもしろいと思いませんか?
余力を残すと、お金にも余裕が生まれます。「別に買えるけど、買わない」という選択肢が自然と生まれてくる。これは我慢ではなく、自分の意志で選んでいる感覚です。この感覚が、次第に幸福感につながっていきます。
そしてその金銭的な余裕が、心の余裕に直結していく。「いつでも買えるけど、今は買わない」——そう思えるようになると、堂々とした自信が湧きあがってきます。例えるなら、いつでも心の中にブラックカードを持っている感覚です。使わなくても、持っているだけで余裕が生まれます。
「安いから買う」ではなく、「本当に必要だから買う」。その選択を、ぜひ一度だけ試してみてください。何かを手に入れるより、ずっと気持ちいい瞬間があるはずです。それを体感したとき、住まいも人生も、きっと少し軽くなるはずです。