Vol.6
住宅ローンは「敵」ではなく、使いこなす「道具」
タイムス住宅新聞 連載「建築士が語る 人生を楽しむ住まい」|一級建築士 村山 創
住宅ローンのメリットとデメリット
「わたしは、いくらまで借りられますか?」
家づくりを始めると、多くの方がまずこの答えを探します。銀行やネットの試算で「4,000万円まで借りられます」と言われると、その数字が自分の住宅予算のように思えてくる。ここに最初の落とし穴があります。
住宅ローンは、まだ手元にないお金で住まいを先に手に入れる仕組みです。同じ額を貯めるには何十年もかかりますが、ローンを使えば今日からその家で暮らせる。これから先の家賃だけでなく、子どもが小さい時期の時間も先に手に入る。住宅ローンには、いわば「時間を前借りする力」があります。
一方で、借りた瞬間から、数十年返済を続ける約束も始まります。将来の収入を先に使う仕組みでもあるのです。返済額が大き過ぎれば、転職や独立、子どもの進学など、人生の選択にも影響します。暮らしを早く豊かにする一方で、将来の自由を小さくする。まさに諸刃の剣です。
「借りられる額」と「返せる額」は違う
金融機関が審査で見ているのは、年収に対する返済額の比率が基準に収まっているかどうかです。その計算に、教育費も、車の買い替えも、突然の出費も入っていません。さらに固定資産税、保険、光熱費、将来の修繕費——前回お話しした「見えない家賃」もあります。
返済額だけでなく、住まいにかかる費用全体で考える。頭金に手元資金をすべて入れるのも危険です。急な支出に備えるお金を残し、貯蓄を続けながら返せる金額を考える。
「銀行はいくら貸してくれるか」ではなく、
「わが家はいくらなら安心して暮らし続けられるか」
これが、わが家の生活防衛ラインです。
国も金利リスクに注意を促している
2026年3月、国土交通省が「住宅ローンの常識が変わる!?」というリーフレットを公表しました。利用者の約8割が変動金利を選び、35年を超える超長期ローンも増えている——それが背景です。
変動金利には、返済額の急増を抑える「5年ルール」「125%ルール」を設けた商品もありますが、払わずに済むわけではありません。繰り延べられた分は、後半の返済に上乗せされます。
金利が動く時代の、基本の考え方
変わるのは金利だけではありません。家族構成も働き方も収入も、35年の間には必ず変化します。今の収入が続く前提でぎりぎりの計画を立てれば、少しの変化がそのまま危機になります。
そこで、基本の考え方を一つ。
「金利ではなく、返済額を決める」
変動金利は、金利が上がったときのリスクを借りる側が引き受ける仕組みです。全期間固定金利は、そのリスクを金融機関に引き受けてもらう代わりに、少し高い金利を払う。この上乗せ分は、いわば保険料です。
目先の返済額の低さを取るのか、35年先まで返済額が決まっている安心を取るのか。物価も金利も上がる局面では、後者の価値は以前より確実に高くなっています。
変動を選ぶなら、固定との差額を使わずに積み立てておく。住宅ローン控除が終わり、余裕ができたときに期間短縮型の繰り上げ返済にまわす。金利が上がれば、その積立が緩衝材になります。
どちらが得だったかは、返し終わるまで分かりません。だからこそ、どちらに転んでも困らない計画にしておくことが大切です。
住宅ローンは「敵」ではありません。使いこなせば、家族が望む暮らしを早く実現してくれる道具です。しかし借り過ぎれば、将来の収入と自由を先に差し出すことにもなります。
だから、借りる前に決めるべきなのは、
「いくら借りられるか」ではなく、「どんな暮らしを守りたいか」。
その視点だけは、忘れずに持っておきたいものです。