Vol.5
住まいの「見えない家賃」に気づいていますか
タイムス住宅新聞 連載「建築士が語る 人生を楽しむ住まい」|一級建築士 村山 創
「あなたの住居費は、月いくらですか?」と聞かれたら、家賃やローンの金額を答える人がほとんどでしょう。でも実は、それは住居費の「一部」にすぎません。
住まいには「第二の家賃」がある
光熱費や保険料に加え、持ち家であれば固定資産税や将来の修繕費。住まいには、住み始めた後も毎月・毎年かかり続けるお金があります。私はこれを「見えない家賃」と呼んでいます。契約書の返済額には書かれず、広告や図面にも載らない。でも確実に、毎月あなたの財布から出ていく。しかもローンと違って、こちらには「完済」の日が来ません。
住宅性能の差は、光熱費の差
この見えない家賃を大きく左右するのが、住宅の性能です。断熱・気密・日射遮蔽に加え、給湯やエアコンなどの設備効率。こうした性能の違いによって、同じ広さ・同じ家族構成でも、冷暖房費は大きく変わります。車で言えば「燃費」です。デザインや広さは一目でわかりますが、燃費はこれまで住んでみないとわかりませんでした。だからこそ、買う前・建てる前に確認すべきポイントなのです。
今は省エネ性能ラベルで住まいの燃費を「見える化」できる時代になりました。2024年4月から、新築住宅の販売・賃貸では、省エネ性能を広告などに表示する取り組みが始まっています。物件によっては、星の数や年間の目安光熱費を確認できます。物件を見るときは、間取り図と同じように、このラベルを比べる習慣をつけてください。
暑い・寒い・カビは「健康へのストレス」
見えない家賃は、お金だけではありません。夏の寝苦しさ、冬の底冷え、窓の結露、押入れのカビ。これらは快適性の問題であると同時に、「健康へのストレス」でもあります。睡眠の質が下がれば日中のパフォーマンスが落ち、結露を放置するとカビやダニが発生しやすくなり、アレルギー症状などにつながる可能性があります。
快適さは贅沢ではありません。働く、学ぶ、人生を楽しむ。あなた自身という一番大切な「人的資本」への投資です。
沖縄では、省エネの効果を実感しやすい
「沖縄は温暖だから、断熱は要らないでしょう」とよく言われます。建築士として、私は逆だと考えています。沖縄の電気代は全国と比較して高い。そして冷房を使う期間は日本一長い。つまり、日射を遮り、冷房の効きをよくする工夫の「リターン」が、全国で最も大きい地域なのです。高い電気を、長く使う場所ほど、省エネは効く。シンプルな算数です。
「安く建てて高く住む」より「賢く建てて安く暮らす」
初期費用の安い家と、性能に投資した家。建築時の価格だけを比べれば、前者の勝ちです。しかし、35年分の光熱費まで含めた「生涯住居費」で比べると、費用差は縮まり、場合によっては逆転することもあります。さらに快適性まで考えれば、その差は数字以上のものになります。
安く建てて、高く住むのか。賢く建てて、安く暮らすのか。「生涯住居費」というモノサシを一本持つだけで、選ぶべき家は変わってきます。
見えない家賃は、工夫次第で「減らせる家賃」です。そして浮いたお金は、旅行や趣味、家族との時間——第1回でお話しした「人生を楽しむ」ための原資に変わります。家の価格やデザインと同じくらい、住まいの燃費に目を向けること。それが、暮らしの満足度を静かに、しかし確実に押し上げてくれるのです。